『ケープタウン』の原題『ZULU』に隠された血と暴力の歴史
『ケープタウン』(2013/フランス/107分)
原題:ZULU
監督:ジェローム・サル
脚本:ジェローム・サル、ジュリアン・ラブノー
原作:キャリル・フェリー「ZULU」
音楽:アレクサンドル・デスプラ
撮影:ドゥニ・ルーダン
出演:オーランド・ブルーム、フォレスト・ウィテカー、コンラッド・ケンプ、ジョエル・カエンベ
※ネタバレなしで書きました
ZULUとは
オープニング、画面にでかでかと映し出された時に、原題が『ZULU』だということを知った。ZULUとは、南アフリカ共和国最大の民族、ズールー族のことを指す。
映画は南アフリカ・ケープタウンで起きた少女の殺人事件をキッカケに、巨大な犯罪組織の実態があぶり出されていくという内容。もちろん、南アフリカが舞台というだけあって、その背景にアパルトヘイトがあるのは間違いないが、『ZULU』というタイトルの裏には、ほかにも南アフリカの血と暴力の歴史がじっとりと蔓延っている。
ズールー戦争を描いた2つの映画
ズールー族は、1817年にシャカ・ズールーを王としてズールー王国を成立。シャカは槍と盾を用いた革新的な戦略を浸透させ、ズールー王国は南アフリカの大部分を支配する一大国家となった。
その後、1879年に植民地支配を目指すイギリスと大きな戦争を起こす(ズールー戦争)。ズールー軍は2万人という圧倒的な勢力でイギリス軍の野営地に突撃し、1,000人超のイギリス軍相手に勝利を収める。
この戦いはイサンドルワナの戦いと呼ばれ、『ズールー戦争/野望の大陸』(1979)という映画にもなっている。バート・ランカスターやピーター・オトゥールが出演しており、大量のエキストラを導入して撮影された戦闘シーンは圧巻だ。
イサンドルワナの戦いでイギリス軍を全滅させたズールー軍は、そこから15km離れたロルクズ・ドリフトのイギリス軍139人に対し、4,000人を投入して戦いを挑む。絶望的と思われた状況の中、イギリス軍は2日間戦い抜き、ズールー軍を退けた。
このロルクズ・ドリフトの戦いも1964年に『ズール戦争』というタイトルで映画化されている。こちらには若かりし頃のマイケル・ケインがブロムヘッド中尉役で出演している。
印象的なのは、勝利を収め、山積みになったズールー族の死体を前にブロムヘッドが仲間に話すセリフ。
「不快だ。恥ずかしい気分だ。君もそう感じるか?」
"赦すこと"の難しさを厳しく描く作品
『ケープタウン』は事件を追う2人の刑事のバディ・ムービーでもあるが、フォレスト・ウィテカー演じるアリとコンビを組むブライアンを演じるのが、イギリス人俳優のオーランド・ブルームというのは偶然ではないように思えてくる。この2人が互いを信頼し合い、影響し合う様には大きな意味がある。
『ケープタウン』は血塗られた南アフリカをめぐる"罪と罰"と"赦し"の物語だが、人種問題、ドラッグ、貧困、汚職、さまざまな要素が詰まっている。社会悪を追う話は、いつしか南アフリカという国の血と暴力の歴史をもあぶり出していく。暴力の連鎖を止めるのは"赦し"だけだが、その難しさに迫る映画でもあった。
人を暴力衝動・自殺衝動に駆り立てる新種のドラッグについての描写だけがバカっぽく浮いて見えるのが難点だが、それが無ければとても素晴らしい作品だった。