『LUCY』はツッコミに勤しみたい人のためにボケ続ける
『LUCY』(2014/フランス/89分)
監督・脚本:リュック・ベッソン
撮影:ティエリー・アルボガスト
出演:スカーレット・ヨハンソン、チェ・ミンシク、モーガン・フリーマン、アムール・ワケド
配給:東宝東和
※「以下、ネタバレあり」まではネタバレなしで書きました。
オープニングからダサくて、バカで、どうしようもない!
噂どおりのどうしようもない作品だった。これが『グラン・ブルー』(1988)、『レオン』(1994)を撮った監督とは信じ難い。
冒頭、あるビルの前で主人公ルーシー(スカーレット・ヨハンソン)と男が話している。
この男、ビルの中にいるマフィアのボス、ジャン(チェ・ミンシク!)のもとにスーツケースを届ける仕事を請け負っているらしいが、ヘタレのクズ野郎で、嫌がるルーシーに強制的にこの仕事を押し付ける。
仕方なく受付まで行き、ジャン氏を呼んでもらうルーシーだが、あれだけビビッてたヘタレ野郎が外からガラス越しにルーシーを見て冷やかすという謎の行動に出る。そして、いきなり撃たれて死亡。(ホラー映画か!)
ちなみに、この場面でガゼルを追うチーターの姿がインサートされて、なにやら無慈悲なマフィアの前になす術もない弱者の恐怖をあおってるみたいなんだが、全然ドキドキしない!というかダサい。センスのかけらもない演出に驚く。
その後、ジャンたちに捕まったルーシーは、クスリの運び屋としてお腹の中に新種のドラッグが入った袋を詰められる。
しかし、下っ端の雑魚に腹部を蹴られた拍子に袋が破けてクスリが体内に漏れてしまう。ガタガタ痙攣しながら壁を這いずり、重力に反して天井に昇っていくルーシー!(主観で描いていればトリップ効果ってことで納得できるけど…。)
このクスリのおかげで人間が普段使えていない脳の機能が20%…50%…80%…と次第に覚醒していく。
といった話なのだが、ツッコミどころが多すぎてとっ散らかりそうなので、ここからは問題点を箇条書きにしてみる。
※以下、ネタバレありです
・脳の覚醒が50%、いや20%ですでに最強なのがマズイ
せっかく大げさなテロップまで入れて段階を区切っているのだから、もっと少しずつ力を手にしていくべき。力を手にすることで戸惑いや葛藤もあるはずなのに、そういった心の機微は描かれない。
・性格まで豹変してしまうのもマズイ
脳が覚醒すると、なぜかルーシーは最低のクズ女に変身する!無抵抗のタクシー運転手の脚を意味もなく撃ったり、病院で手術中の患者を見て「こいつ腫瘍が転移してるから助からない」と撃ち殺したりというゾッとする場面が続く。これじゃあ感情移入とかできないよ。こんな怖い奴さっさとやっつけてミンシクさん!!
・刑事とのバディムービーっぽくなるが、まったく心通わせない
途中で出会う刑事と行動を共にする場面があるのだが、特に心の交流はない。(愛情のカケラもない無駄なキスシーンはある!)
それに、最後にこの男のもとに「私はあらゆるところにいる」とルーシーからメールが届くのだが(面倒なので経緯は割愛)、この2人の関係が薄っぺらすぎて「いや知らんがな!」となってしまう。
この2人の恋愛関係を匂わすようなシーンを入れたらキャラに深みも出るし、展開によってはスカヨハのラブシーンも撮れて一石二鳥なのに…。
まあこの問題に関してはルーシーに心が無いので、通わせようもないのだが。
・行動原理が分からない
平凡でただのバカ女っぽかったルーシーが急に脳を100%覚醒させる欲求に駆られてドラッグ収集を始める理由が分からない。
あと、わざわざUSBメモリーに自分の"データ"をコピーして脳科学者のノーマン教授(モーガン・フリーマン)に渡す意味もよく分からない。「次世代に知識を伝えるため」という感想も目にしたけれど、それならノーマン教授ともっと親密な関係にしておいた方が感動的なのでは。
この映画、基本的に人と人との関係を掘り下げようという気がいっさい感じられない。
・大物俳優を放ったらかしすぎ
ノーマン教授との関係性が弱いという点にも通じるのだが、モーガン・フリーマンとチェ・ミンシクという"居るだけで100点"の渋くて強烈な役者に見せ場がなさすぎる。
ミンシクさんに関してはいちおう活躍してはいるのだが(アイツに簡単に殺られるのはどうか)、フリーマン御大はさすがの存在感でやたら重要人物臭は出てる割に、ほとんど居なくてもいいような役でもったいない。
ダメならダメで、突き抜けよ!
こんな具合にツッコミ始めると止まらなくなるのだが、じゃあつまらなかったかと言うと、まあまあおもしろかった。ツッコミながら観るというのも楽しいものだ。この映画は終始ボケ続けてくれるので、ツッコミ気質の人にこそおすすめしたい。終盤の時空を超えた展開のバカバカしさなんて一見の価値ありだと思う。
世の中には「おもしろい駄作」と「つまらない駄作」があるが、これはどちらかと言うと前者だ。後者の例としては、最近ではジョニー・デップ主演の『トランセンデンス』あたり。
要するに、ダメさも突き抜けていればおもしろさに変わることがあるということ。
かと言って『LUCY』が突き抜け切っているとは言い難いので、どうせなら同じく脳を覚醒したミンシクさんと人智を超えたバトルでも見せてくれればよかったんじゃないかと思う。