『ルパン三世』一部の人間に付き合わされて汗を流した人達には大いに同情したい

ルパン三世』(2014/日本/133分)

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監督:北村龍平

脚本:水島力也

プロデューサー:山本又一朗

アクション監督:シム・ジェウォン、ヤン・ギルヨン

撮影:古谷巧

出演:小栗旬黒木メイサ浅野忠信玉山鉄二綾野剛

配給:東宝

 

 

※ある人の特別出演にだけ触れましたが、他ネタバレなしです。

 

戦いは上映前から始まっている!

上映前の「映画泥棒」は今やTwitterアカウントができるほど御馴染みとなっているが、この『ルパン三世』の上映前には「ルパン泥棒」が現れて映画館でのマナーを説く。

 

「映画の盗撮なんて、みっともねぇ〜ぜ」

 

全身に立ちあがる鳥肌に耐えろ!失笑を噛み殺せ!戦いはもう始まっているのだ。

 

もみあげのないルパン、幼い不二子、失われたテーマソング…。

いや、もうそんなところに関しては目を瞑ろう。そんなのは些細な問題点だと思う。

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まず、ルパン三世が盗人集団の一員という設定からして据わりが悪いし、組織に属して仲良しこよしで盗みをするっていう点には「そんなのルパンじゃない…」と誰もが思うはず。

そう、ここに登場するのはルパンのようでルパンじゃない、誰も知らないお調子者。そんな、ただのお調子者がモノマネ合戦を繰り広げるだけの作品になってしまっているから、見るに堪えないのだ。

 

原作をなぞるほどに増す痛々しさ

この映画では、ルパン(小栗旬)と次元(玉山鉄二)がその盗人集団の中で初めて出会うというエピソード0的なストーリーになっているのだが、この2人が会うやいなや「お前とは気が合いそうだ。組もうぜ」となる。いやいや!どこに「気が合いそう」と思わせる場面があった?

 

全編通してそうなのだが、原作の『ルパン三世』のキャラクターや関係性を優先しすぎるあまり、行動に謎が多くなってしまっている。原作の"イメージ"ばかりを必死になぞる。しかし、なぞるべき重要な要素をことごとくハズしてしまっているため、なぞればなぞるほどこちらには痛々しく見えるという負のスパイラルに陥っているのだ。

 

ルパンと不二子(黒木メイサ)もパッと見でチグハグすぎるカップルでツラいのだが、なんとか付かず離れずの独特な関係性を示そうと、突然ダンスを踊ってみるという奇妙な場面が挿入される。スパイものとかで男と女がダンスしながら「キスするの!?しないの!?あー!」みたいなのはよく見るが、多分そういうのを狙ったよう。

 

黒木メイサってエロさは十分あるけど、根本的にエロさの質が不二子と全然違う。

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また五エ門も、追っ手の車を撃退する場面で、何も斬っていないにも関わらず「またつまらぬ物を斬ってしまった」という"お馴染み"のセリフを吐いて間抜け面を曝すはめになっているのだ。(地面を斬ったと言えば斬ったが、五エ門なら車自体を真っ二つにすると思う。)

 

銭形(浅野忠信)もガラガラ声でなんとか体裁を整えようと必死だが、ルパンに司法取引のような協力を持ちかけるという、あるまじき行為に走ってキャラが崩壊している。

 

謎のキャラクターが主役になってどうする!

さらに、謎の台湾人キャラクターがやたら中心人物扱いなのも大いに問題。海外ロケの代償なのか、マイケル(ジェリー・イェン)とかいう新キャラが突然出てきて、しかもそいつ中心で話が進むせいで、1番の見所となるはずのルパン一味の一体感が微塵も感じられない。

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最近公開された『LIPIN THE ⅢRD 次元大介の墓標』(2014)も出会って間もないルパンと次元を描いていたが、2人の間に流れる空気が少しずつ変わる様を的確に描いていたし、一緒にタバコを吸うだけの場面でも非常に印象的だった。あの空気感こそ、『ルパン三世』なのだが…。

 

これは誰に向けてのサービスなんだ…

あと、ルパンが五エ門に会うために乗った飛行機で、客室乗務員の役をやってるのがまさかの山田優!という別に驚きも感動も何もない、非常にムダなサービスがあるのだが…あれってどういう経緯で決まったわけ?まさか小栗くん側からのごり押しじゃないよね…。

制作側のアイデアだとしたら、それで一体誰が喜ぶと思ったんだろう。誰に向けてのサービスなのか分からなくてとても奇妙だ。DVD特典とかで十分だったのでは。

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それでもヒットしてくれることを願う

ただ、誰が見ても負け戦だったこの企画が「成功する」と妄信した一部の人間に付き合わされて、汗を流した人達には大いに同情したい。

小栗くんが何度もオファーを断った上でルパン役を承諾したという話も漏れ聞こえていたが、そんな人達の労をねぎらうためにも、どうにかヒットしてくれることを願ってやまない。

先日、公開10日間で興行収入11億を突破したとの報道を目にした。製作費は10億円とも数十億とも言われているので何とも言えないが、配給の最低目標は30億らしいので、ここからどこまで伸ばせるか温かい目で見守りたい。

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最後にFIATの宣伝カットをどうぞ。雑誌のスチールじゃないんだから…。