ルドガー・ハウアー追悼。さようなら、ロイ・バッティ。
ルドガー・ハウアーが死んでしまった。『ブレードランナー』のロイ・バッティが。
奇しくも2019年は『ブレードランナー』の舞台でもあった。まだ車は空を飛んでないし、レプリカントを奴隷のように扱ったり、虚栄に満ちた巨大ピラミッド型の建物がぶっ建てられたりする世界はまだ訪れていない。放射能と酸性雨の汚染に関しては目前まで来ているかもしれない。
恐ろしく残酷で暗い世界の中で、ロイ・バッティの笑顔と泣き顔だけが生き生きとして見えた。
当時ルドガー・ハウアーは40歳手前ぐらいだろうか。そう考えると、あんな風に仲間の為に泣いて、命の価値について考えることができる(クソな対応をしてくる奴はぶっ殺す)素晴らしい大人になるには、まだもう少し猶予がありそうだ。
ちょうど梅雨の時期に届いた悲しい知らせ。ロイ・バッティ、この上なく壮大で、美しく、命の輝きと儚さに溢れた最期の言葉を忘れません。
さようなら、ルドガー・ハウアー。さようなら、ロイ・バッティ。
『マン・ダウン』"衝撃のラスト"というパラドックス
『マン・ダウン 戦士の約束』(2015)
衝撃のラスト7分46秒、あなたの心は"えぐられる"!
これはこの映画のキャッチコピーですが、もうこの手のやり口はやめていただけませんかね…。
"ラストにドンデン返しがある"と紹介することは、その時点でドンデン返しではなくなるというパラドックスを抱えています。
僕はうっかりネタバレを目にしてしまっても、映画が始まってしまえば忘れて熱中してしまうタイプなんですが、この作品は"衝撃のラスト"までのフリがもの凄く地味で退屈なのでツラいです。早く予告編みたいなディストピア展開こないかな、ともどかしかったのが正直なところです。
で、そのラストに関しては感動的で良かったと思うのですが、あまりに"終わりよければすべて良し"に頼り過ぎな作品でした。
アイデア自体は面白いと思うし、メッセージなどに文句をつけるつもりもまったくありません。ちょっとそんな不吉な合言葉はやめなさい!とは思いましたが…。
"終わりよければすべて良し"というのも大事(終わりもダメで全部ダメより遥かにマシなので)だと思いますが、ラスト以外の部分をもっと面白くする余地があったのではないかと残念でなりません。
余談ですが、ロバート・パティンソンの『リメンバー・ミー』は予告編やキャッチコピーが徹底的に管理されていて、よくある青春恋愛映画っぽいものを想像して観に行って衝撃を受けました(しまった!これもパラドックスですね…すみません)。
『マン・ダウン 戦士の約束』2015
原題:Man Down
監督:ディート・モンティエル
原作:ディート・モンティエル
脚本:ディート・モンティエル、アダム・G・サイモン
音楽:クリント・マンセル
祝!エンニオ・モリコーネ大先生、念願のアカデミー賞受賞!本当によかった!
第88回アカデミー賞が発表されました。
今回の個人的なハイライトは
- 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』が最多6冠(ジョージ・ミラー監督賞獲れず!作品賞も逃す!)
- マーク・ライランスがスライを抑えて助演男優賞を受賞!スゴい!
- 追悼でデイヴ・グロールによるビートルズの名曲"Blackbird"(最初の写真はウェス・クレイヴン)
- エンニオ・モリコーネ御大の涙
- レオナルド・ディカプリオやっと受賞で優等生スピーチ
あー『マッドマックス』V8届かず残念だったなー。でも受賞した"ウォーボーイズ"たちはみんな嬉しそうでよかったですね。
で、今回は87歳で初受賞(!)のエンニオ・モリコーネ大先生について。
過去に5度ノミネートされており、6度目でついに受賞。これまでどんな人たちとオスカーを争っていたのか調べてみたところ、
『天国の日々』で初ノミネートとなった1979年の作曲賞は、ジョルジオ・モロダーの『ミッドナイト・エクスプレス』に敗北。以下はその他ノミニー。
『天国から来たチャンピオン』デイヴ・グルーシン
『スーパーマン』ジョン・ウィリアムズ
1987年の作曲賞は『ラウンド・ミッドナイト』でハービー・ハンコックが受賞(サックス奏者の映画ですしねぇ)。モリコーネは素晴らしすぎるテーマ曲の『ミッション』で獲得ならず。
『勝利への旅立ち』ジェリー・ゴールド・スミス
『スタートレックⅣ 故郷への長い道』レナード・ローゼンマン
2年連続のノミネートとなったこの年、モリコーネは何度聴いても鳥肌モノの『アンタッチャブル』で選出(ちなみにグラミー賞は受賞)。これを抑えたのは『ラストエンペラー』のデヴィッド・バーン&コン・スー&坂本龍一でした。2作品でノミネートされてるジョン・ウィリアムズも凄い…。
『遠い夜明け』ジョージ・フェントン、ヨナス・グワングワ
『イーストウィックの魔女たち』ジョン・ウィリアムズ
今度は『バグジー』でノミネート。しかし、受賞したのは『美女と野獣』アラン・メンケン。メンケンはこの年の歌曲賞もかっさらいまして、翌年は『アラジン』で作曲賞と名曲"A Whole New World"で歌曲賞も受賞。
『サウス・キャロライナ/愛と追憶の彼方』ジェームズ・ニュートン・ハワード
少し間があいて、『マレーナ』(これも泣かせる音楽だったなぁ)で5度目のノミネートも、『グリーン・デスティニー』のタン・ドゥンに敗れました。『グラディエーター』も印象的な音楽でしたよね。
『ショコラ』レイチェル・ポートマン
で、ついにクエンティン・タランティーノ監督『ヘイトフル・エイト』で念願の作曲賞を受賞!!!
『ブリッジ・オブ・スパイ』トーマス・ニューマン
『キャロル』カーター・バーウェル
『ボーダーライン』ヨハン・ヨハンソン
『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』ジョン・ウィリアムズ
※ちなみに第79回アカデミー賞で名誉賞は受賞しています。
モリコーネ大先生といえば、ほかにも強烈にカッコイイ『続・夕陽のガンマン』、"The Ecstasy of Gold"とか最高。涙ボロボロの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』、あと『めぐり逢い』の音楽も良いんですよね。
オスカーをアシストする形となったタラは以前から"モリコーネ愛"を公言していて、『イングロリアス・バスターズ』(2009)でも作曲を依頼していましたが、その際はスケジュールの折り合いがつかず(劇中には既存の曲を数曲使用)。
『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)には書き下ろしの新作を1曲だけ提供しましたが、その際に御大は「タランティーノ嫌だよ、スケジュールぎりぎりで言ってくるし。うるさいから作ってあった曲をあげただけ」と告白してまして、「タラってあちこちから音楽寄せ集めてぐちゃぐちゃにするし、ああいうのは作曲家からしたら許せん!」とも仰っておられました。
さらには『ジャンゴ』について「正直、血ばっか出てて、あんな物騒な映画好きじゃないよ」とも。
ちなみにエロ残酷拷問スカトロ映画の『ソドムの市』(1975)では、パゾリーニ監督はショック描写のないシーンだけをモリコーネに見せて音楽を依頼(そんなシーンある!?)。モリコーネ師匠はその気づかいに大変感激されたそうです。
今回の受賞スピーチでは、涙ぐみながら「素晴らしい映画なくして、美しい音楽はできません。クエンティン・タランティーノ監督に感謝を捧げます、私を選んでくれてありがとう」とコメント。
あの姿、タラにも会場で見せてあげたかった!!
最後は「今も見守っている妻にこの賞を捧げます」(御大は非常に愛妻家)と締めくくり、会場もスタンディングオベーションでした。
ああ、本当によかった!涙!
『オデッセイ』は情緒よりも論理でエンターテインメントを成立させた快作
映画『オデッセイ 』予告編
The Martian | Official Trailer (←こっちが最高)
※『グッド・ウィル・ハンティング』のネタバレがありますのでご注意を。
この映画が画期的だったのは、"情緒"ばかりに流されることなく、"論理"によってエンターテインメントを成立させてしまったところではないでしょうか。
具体的には宇宙飛行士と地球で待つ家族が「愛してる」と甘い言葉をかけあったりするシーンが情緒ですが、そんなのは少なくとも火星で生きるためには意味ないよね、という潔さが非常に痛快な作品でした。
『ブリッジ・オブ・スパイ』の名言を借りるなら、まさに「Would it help?(それが何かの役に立つのか)」ということ。
主人公のマーク・ワトニー(マット・デイモン)はそのかわり"論理"に従って、生きるために必要なことを着々とこなしていきます。
論理というのはつまり「知性」「科学」。情緒で人は進化できないけれど、論理は人を未来へと連れて行ってくれるという、非常に夢のある映画でした。
『グッド・ウィル・ハンティング』ではシンクタンクへの就職を蹴って、愛する女性の元へと旅立って行くという極めて"情緒"的な道を選んでいたマット・デイモンが主役なのも面白い。
論理ばかりで堅くて冷たい話なのかというと、まったくそんなことはありません。
脚本(と原作)のユーモアが抜群なのはもちろん、音楽の使い方も絶妙で、ドナ・サマーの"Hot Stuff"が流れる場面は笑えて仕方ないし、デヴィッド・ボウイの"Starman"とオージェイズの"Love Train"が流れるところは涙なくして観られません。
「世界中のみんな、さあ互いに手を取り合って行こうよ。愛の列車に乗って」というのは照れ臭く感じるけれど、その通りとしか言いようのない正しさがあるので、やっぱり感動せざるを得ませんよね。
The Martian (2015): Soundtrack and Complete List of Songs (←視聴できます)
デヴィッド・ボウイ×宇宙といえば、最近OK GOの無重力MVのおかげで、カナダの宇宙飛行士が宇宙で撮った"Space Oddity"の自作MVが再注目されてます。
孤独を感じさせる雰囲気はどこか『オデッセイ』に似ているような気も。
先日、アメリカの研究施設で世界で初めて「重力波」が観測されましたが、これもまさに論理がもたらした感動ですね。
世界のみんな、手を取り合って、さあ未来へ!
『オデッセイ』 2015年・142分
原題:The Martian
監督:リドリー・スコット
脚本:ドリュー・ゴダード
原作:アンディ・ウィアー『火星の人』
製作:サイモン・キンバーグ、リドリー・スコット、マイケル・シェイファー、アディティア・スード、マーク・ハッファム
撮影:ダリウス・ウォルスキー、ASC
編集:ピエトロ・スカリア、ACE
出演:マット・デイモン、ジェシカ・チャステイン、クリステン・ウィグ、ジェフ・ダニエルズ、マイケル・ペーニャ、ショーン・ビーン、ケイト・マーラ、キウェテル・イジョフォー
2015年マイベスト映画20
1.『マッドマックス 怒りのデス・ロード』
もはや説明不要。すべてが圧倒的。こんなに強烈な映画はもう死ぬまでないんじゃないか、と悲しい思いがよぎるほどに別格。すでに予告編が凄すぎたけど、そのテンションが全編続いていて、まだ見せてないクライマックスが山ほどあったことに心底驚いた。
2.『ウォーリアー』
長い目で見ると『薄氷の殺人』の方が好きかもしれないけど、"今年のベスト"としては瞬発力でこちらが勝った。クライマックスのトーナメントは呼吸を忘れるほどに興奮したし、"About Today"が流れる場面は涙なしで観ることは不可能。
3.『薄氷の殺人』
ハードボイルドものの掴みどころの無い魅力が、中国という国の独特の雰囲気と融合して本当に奇妙な味わい。1ショットごとの美しさにも息を呑むし、映画全体を貫くリズムを非常に独特。空虚なダンス。そして、白昼の花火が残す余韻は絶品。
4.『イミテーション・ゲーム』
映画『イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密』予告編
"隠すこと"をキーワードとした、重層的な脚本がスゴい。はみ出し者に向けた人間讃歌にめちゃくちゃ胸を打たれた。カンバーバッチの見事な演技にも舌を巻いた。
5.『インヒアレント・ヴァイス』
映画『インヒアレント・ヴァイス』予告編
珍妙さの極み。豪華キャストやオフビートな笑い、ホアキンの完全にラリってふわふわした感じの演技など、どこを取っても面白い。
6.『ブルー・リベンジ』
リアリティを追求することで、大真面目な場面がコメディのような可笑しさを孕んでくるところが面白い。それでいて冒頭など暴力の描写は厳しく、強烈な印象を残す。『わらの犬』『鮮血の美学』などを思わせる、暴力がたどり着く恐ろしく寂しい結末も良い。
7.『ミニオンズ』
今年最も心和んだ作品。終始ニヤニヤが止まらないが、ヒッピーカルチャーや英国ロック、映画の引用などの盛り込み具合は並大抵のこだわりではない。歴史とのリンクのさせ方も絶妙。
8.『ヴィンセントが教えてくれたこと』
現在のビル・マーレイの魅力を余すところなく引き出した1本。善人とも悪人とも言い難い、面倒くさい人間描写がたまらなく愛おしい。ビル・マーレイが歌うボブ・ディランの"Shelter From The Storm"は本当に名場面→ビル・マーレイがボブ・ディランの名曲を超テキトーに歌う特別映像
9.『ストレイト・アウタ・コンプトン』
虐げられた者たちが立ち上がる物語はいつだって胸に響く。青春モノの切なさを残すところも大きな魅力。今なお、中指を突き立てざるを得ない出来事は山ほどあるが、屈するな!という力が込み上げてくる。
10.『ナイトクローラー』
今年最も最低な人間が出てくる映画!この作品のジェイク・ギレンホールは度を越して"最低"で、感情移入すら困難なレベルまで達している。それでも、どうしようもないクズを見るのはとにかく楽しい!(映画の中では)。
11.『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』
新シリーズの幕開けとしては完璧と言っていいのでは。旧シリーズファンへの接待が終わり、本当の意味でのスタートとなる次作が楽しみ。
12.『コングレス未来学会議』
目眩くトリップ感が面白い。ハーヴェイ・カイテルの演技は涙なくして見れない。
13.『さよなら、人類』
1シーン1カットの絵画のような画づくりの素晴らしさ。想像の範疇を遥かに超える奇妙な映画で驚いた。
14.『キングスマン』
映画において、現実世界の"正しさ"がいかに無意味かを痛感した。教会のシーンやクライマックスは涙ぐむほどに凄まじい感動があった。
15.『ミケランジェロ・プロジェクト』
戦争映画ではあるものの、暗くなりすぎない軽快さが今の時代には新鮮に映った。「モニュメンツ・メン」の存在を知れたというだけでも観てよかった。
16.『誘拐の掟』
量産される「リーアム・ニーソン最強映画」の1つと甘くみていたら、毒々しく、シブいミステリーでぐんぐん引き込まれた。
17.『フォックスキャッチャー』
観ていて本当に居心地が悪くなった。悲劇と喜劇の境界線上にあるような印象で、笑えるところだけど…うわぁキツいなあ…という感覚を何度も味わった。スティーブ・カレルの不気味でいて哀しい演技は見事としか言いようがない。
18.『白い沈黙』
映画全体の凄まじく不気味な雰囲気に圧倒された。謎は明かされ、問題は解決するものだ、という常識から外れた後味の悪さが非常に恐ろしい。
19.『野火』
デジタル映像の異様な雰囲気や、物語自体も常軌を逸したものだが、何と言っても塚本監督の熱意がスクリーンから溶け出してくるような熱さを感じた。
20.『The Drop』
トム・ハーディも素晴らしいが、ジェームズ・ガンドルフィーニの遺作がスクリーンで観られなかったということは本当に残念でならない。